この身ひとつじゃ足りない叫び(景零)

再会の話。


 いつか再び会えたなら、話したいことは恐らく尽きないのだから、生きてきた分だけの年数が死後にも必要だなあ、なんて思っていたのに。

 いざ数十年ぶりに親友の顔を見れば、言葉も思考も何もかもが霧散してしまった。
 それは向こうも同じようで、ひしと抱きしめ合ったまま、僕たちはなにも言葉を発することはなかった。……出来なかった。互いの名前以外は。

「ひろ、ひろ、……ヒロ」
「うん、ぜろ、……ゼロ」

 まるで壊れた音楽プレイヤーのようだ。中学生のとき、一緒にお小遣いを出し合って買った中古のそれ。何とか自分たちで直せないか分解を試みたんだったか。今思えば、松田みたいなことを無謀にもしてたものだ。ああ、あいつらにも会いたいな。
 けれどその前に、伝えたいことがある。

「ヒロ、頼みがある」
「なあに?」
「……ただいまって、言ってくれないか」

 身体を離せば少し驚いた顔があった。それもそうだろう。長い時を経て、『こっち』にやって来たのは僕の方なのだから、それを相手に求めるのもおかしいかもしれない。でも、どうしてもきみの口から聞きたいのだ。
 間があったのも少しだけ、願いはすぐに叶えられた。

「……うん。ただいま、ゼロ」
「……っ、うん、……おかえり、ヒロ」
 
 ーーああ、やっと言うことが出来た。

 幾度となく繰り返してきたあいさつ。おはようとおやすみ。いただきますとごちそうさま。行ってきますと行ってらっしゃい。最後に交わしたのはいつだった? じゃあなと言ってきみはかえってこなかった。だから、ずっと、ずっと、また会えたなら、僕はこれだけでも言いたかったのだ。おかえり、と。

 ことばと共に、涙もあふれ出す。胸の奥、際限なく湧いてくる想いは、生前も死後も変わらない。再度こちらを抱きしめるぬくもりも、やさしく沁み渡る声も何もかも。

「ゼロも、おかえり」
「ああ、ただいま、ヒロ」

 そうして僕らはやっと、かえることが出来たのだった。




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後書き
4回目のすずとじ(と特典ポスカの監督コメント)を見て情緒が爆発した結果です。
降谷さんにも……取り戻させたかったんだ……などと供述…………。